BIMでDXを実現: 建設業の事例から学ぶ日本のデジタルトランスフォーメーション
デジタルトランスフォーメーションを起こすには、単なるデジタル化では不十分です。それに必要なプロセスの最適化、自動化、標準化のため日本の建設業界が BIM に取り組むべき理由と、設計から施工、運用までデータをつないで回す先進的企業の事例を紹介。
- DXを成功させる経営戦略とビジョンの提示
- デジタル化の活用: 最適化、自動化、標準化
- プロセスの見直しの先にあるDX
- DXとBIMの今後
あらゆるビジネスの世界でデジタルトランスフォーメーション (DX) が語られるようになった。だが、デジタル化だけで変革は起こらない。従来は手描きだった図面をCADを使って描くだけでは変革が起こらないことは、この業界の誰もが理解しているだろう。重要なのは、これはビジネスの変革であり、デジタルのツールとワークフローを活用することで起こす変革だということだ。
日本におけるDXを考える上で、経済産業省のガイドラインを無視することはできない。この2018年12月に発表されたガイドラインには、DXを推進するための経営のあり方、仕組みとして、経営戦略とビジョンを提示することと、そこに経営トップがコミットメントしていかなければならないことが明確に謳われている。
日本でDXを起こすためには、デジタル化したものを最適化、自動化、標準化していくことが必要であり、建設業においてはそれこそがBIMだと言えるだろう。これはBIMソフトウェアを導入して、それで皆が3次元設計をするということではない。最適化、自動化、標準化というプロセスの見直しの先にDXがあるため、まさにいまBIMに取り組まなければならないのだ。

このデジタル化のメリットを生かすには、設計から施工、運用まで、きちんとデータをつないで回していくことが大切であり、どうすればそれを実現できるのかを考えることが重要だ。この「Connected BIM」(つながりの時代のBIM) を推進している日本の企業の一部を紹介していこう。
デジタル化の活用 #1: 最適化
国内有数の設計事務所である日本設計は、基本計画から実施設計に至るまで初期段階から3Dを用い、そのプロセスを最適化するための検証を行ってBIMで情報を統合することで、どう「働き方改革」を実現していくかを見据えている。クラウドの設計管理ツールであるBIM 360を使いながら、遠隔での作業者と同時に3D空間上でBIMデータをやり取りするなど、従来の3D CADではできなかったことを実現。こうしたスムーズなコミュニケーションは、体験してみないと理解できないとしている。
愛知県名古屋市に本社を置く矢作建設工業は、現場の仮設計画やクレーンの計画にAutodesk Revit やNavisworksを活用している。単に3Dモデルをもとにシミュレーションや図面作成を行ったり部材の数を拾ったりするだけでなく、情報をオープンにしてBIMでつながることで、元請け会社と専門工事業者の間でWin-Winな関係を実現。現場を長く経験している個人のノウハウやスキルに依存してきた作業をデジタルに変換することで、そうした力量の差を縮めている。
デジタル化の活用 #2: 自動化
国内スーパーゼネコン5社に名を連ねる大林組は、BIMを基盤とした建設プロセスを軸として、設計から維持管理に至るまで建物データベースを一貫して活用する「スマートBIM」に取り組んでいる。社内のBIMモデルやノウハウを、クラウド環境のBIMWillを活用して共有。外部へ公開することで、デジタルツインによる新たなサービスを模索している。
そこでBIMデータと外部のデータをつなぎ、新しいビジネスモデルを生み出すために使われている Web 開発環境の Forge は、こうしたビジネスに早い段階から取り組んできた安井建築設計事務所の BuildCAN でも重要な役割を果たしている。BIM データと IoT 環境センサー情報を、Forge を利用して可視化。BIM が持つ 3 次元形状情報と各種属性情報を、建築マネジメントデータベースとして一元管理している。
日本初の Forge システムインテグレータ資格を取得し、急成長を遂げている応用技術は、「to BIM」のコンセプトとDXを推進し、建設業の業務効率の改善に取り組む。従来の 2 次元の作業、図面作成の仕事はアウトソースして、3D BIM やAI、IoT を自社のノウハウにできるように社内のリソースを使うという、開発会社としても新しいビジネスモデルに挑戦しており、うまく自動化をしながら DX を見据えているという点も先進的だ。
デジタル化の活用 #3: 標準化
2016 年 8 月、フリーダムアーキテクツデザインへ国内で初めて、住宅性能評価センターから 4 号建築物の確認済証交付が発行された。2017年5月31日には、4 号建築物の建築確認申請書類を BIM データから作成するためのテンプレートを公開。確認申請機関と設計事務所という枠組みを超えて新しいやりかたに挑戦した、初期の取り組みとして評価できる。
大和ハウス工業は、BIM データによる建築確認申請の事前審査プラットフォームを、日本 ERI と共同で開発。申請データ確認や指摘事項の送付・回答をクラウド上で実現している。BIM導入を本格化して、事務作業の煩雑な確認申請にも活用を広げており、DfMA (製造、組立のための設計)による一気通貫 BIM に取り組むなど、DX に最も近い企業のひとつと言える。
また、日本の国としての動きでは、600 兆円経済の実現に向けたファンドとして平成 30 年度に創設された PRISM も重要だ。首相官邸から、攻めの未来投資戦略とSociety 5.0、守りの働き方改革が発信されている、さらに BIM が政策の中にも言葉として出てくるようになるなど、国としても建設業へのデジタルの変革を求められている。
今年は建築 BIM 推進会議などもあり、業界団体が集まって標準化を目指している。建築研究所では、BIMを活用した電子確認審査のためのプラットフォーム作り、建築保全センターでは日本の BIM ライブラリの標準化を図るために、意匠、構造、設備のライブラリ整備を実施。世界ではシンガポールや韓国、英国で国主導の動きがあったが、そうした世界標準に日本も追いついてきたと言えるだろう。
日本の DX は決して遅れているわけではなく、最適化や自動化、標準化のさまざまな取り組みが行われている。単に新技術を発表するだけのものではなく、これまでのやり方を変えて、何が無駄だったのか、何をやればもっと楽しく仕事ができるのかを検討。それを BIM と呼び、こうした取り組みを引き続き行なって、その先にあるDX とビジネスの変革を見据えて活動していくべきだ。
DX と BIM の今後
BIM はデータ活用から始まる。従来の BIM は 3D CAD の延長で、干渉チェックができる、数量が拾える、図面が書ける、一覧表が取り出せるといったところが活用されてきた。だが設計の中での閉じた活用ではなく、せっかく作った設計データ、建設現場で得られたデータをかけあわせ、それを運用データとして構築していくことが重要であり、そのデータに価値がある。
相互補完する標準化と新技術をまとめていくには、全員がリーダーであるという考え方を持つことが大切になる。国や施主、社長の要求で BIM や新しいテクノロジーを取り入れるのでなく、それに注ぐ情熱が重要だ。社外に出て、自分の取り組みの発表や、情報交換をする。社内でも、これまであまり接点のなかったところと、どう取り組めば新しいことができるのか。そうしたマインドセットを持つことが BIM の次の世界観であり、それがデジタルトランスフォーメーションやビジネスの変革につながっていくのではないだろうか。