BIM で働き方改革: テレワークによる人材活用の取り組み
在宅やモバイル、サテライトオフィスなどを活用するテレワークが、多様な働き方を実現する方法として、いま大きな注目を集めています。BIM の活用により、テレワークを通じて働き方改革を進めている各社の取り組みを紹介します。
日本の「BIM 元年」と言われる 2009 年から 10 年を経て、BIM は建設業界の働き方を変えるプロセス、プラットフォームになると考えている。とりわけ、国の戦略として攻めの「未来投資会議」、守りの「働き方改革」という二本柱で建設業へのテコ入れが行われた今年は、新たな BIM の始まりの年になるだろう。
働き方改革を推進する上で課題のひとつとされているのが、多様な人材の活用のための取り組みであり、「平成 29 年度 年次経済財政報告 ―技術革新と働き方改革がもたらす新たな成長―」の中でも“様々な事情を抱えつつ労働参加する人々を支えるサポート体制を強化することが重要”だと述べられている。
そのユニークな事例となるのが、BIM を活用したテレワークの実践だ。株式会社テレワークマネジメントの田澤由利代表取締役は 4 年ほど前から BIM に注目するようになり、地元に埋もれている女性がそのスキルを身に付けることで、テレワークを通して高度な仕事を行えるように尽力してきた。

自らも結婚や子育てのため企業からの退職を余儀なくされたという田澤氏は「20 年前にワイズスタッフという会社を設立して以来、高いスキルを持つ、以前働いていた会社は辞めているが自宅で仕事をしたいと考える人たちとネット上でチームを組む、ネットオフィスという概念に取り組んできました」という。「ワイズスタッフという会社で受注することで、企業からも安心して発注してもらえる仕組みになっており、埋もれている人材が働くことができ、大量の高度な業務を行うことができます」。
だが、こうしたテレワークは、現在も導入が難しいと考えられているケースが少なくないという。「離れた場所で作業をしていることで、コミュニケーションや、セキュリティ面の問題が気にされていることも多いですね。実際には相当の部分がテクノロジーで解決できるようになっているにもかかわらず、できないという思い込みがあって、なかなか進まなかったのが現実です」。
このテレワークを建築設計の分野でも推進するため、ワイズスタッフは 2016 年に応用技術株式会社や SEEZ、オートデスクの協力を得て、北海道旭川市と実証実験を実施。BIM ソフトウェアである Autodesk Revit のトレーニングを東京から遠隔で行い、需要が急激に増加している BIM の作業をできる人材育成を行った。2017 年には、旭川市に加えて奈良県天理市でも人材育成を始めている。
「そのスタート時に、最初の一歩として仕事を発注してくださったのがスターバックス コーヒー ジャパンさん。小さな仕事をいただいて、それで鍛えながら少しずつ仕事が増えていくのが、すごく嬉しかったですね。その後、スキルを身につけたワーカーが自らネットで検索して自分たちで仕事を開拓できるようになったのも、BIM の仕事ができて良かったなと思う瞬間でした」。
BIM の推進を人材の維持・確保に活用
テレワークは、「ICT を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」を指す。ここまで紹介してきた自営型テレワークに対して、企業の雇用者が在宅勤務やモバイルワーク (顧客先や移動中にパソコンや携帯電話を使った働き方)、勤務先以外のオフィススペースでパソコンなどを利用するサテライトオフィス勤務などで働くことは雇用型テレワークと呼ばれ、こちらも働き方改革の実現に重要な役割を果たす。
創業 127 年を迎える大手ディスプレイ デザイン会社、株式会社乃村工藝社は、フレックスタイム制の導入やリフレッシュ休暇制度に加えて、入社 4 年目からの在宅勤務、全国に 150 箇所以上も設けられているサテライトオフィスなどで働き方改革を積極的に支援。産休・育休からの復職率が 100% を実現するなど、女性にも非常に働きやすい環境を実現している。国内 10 箇所・海外 8 箇所の拠点があり、グループ会社を含めて 2,200 名以上のメンバーが年間 14,000 件もの物件を手がける同社では、業務の継続的な効率化のため BIM を導入している。
BIM の導入は、BIM を扱えるソフトウェアの導入だけでは実現できない。業務のワークフローを見直し、正しくテクノロジーを導入して、新しいやり方に変えていくプロセスが必要になる。そのための投資や手間、人材が必要となることから社内で同意が得られにくい場合もあるが、それを乃村工藝社はどう乗り越えたのだろうか?
同生産技術研究所 BIM ルーム の田辺真弓ルームチーフは、BIM の導入に際して「乃村工藝社は建築物を建てているわけではないので、BIM は必要ないのではないかという声もありました」と語る。だが、現場からの BIM 導入を望む声と、役員の中からの強い意見の両方が後押しになったという。「この先を見据えると、海外の仕事も多くなるでしょうし、グローバル化によって海外からも人材が入ってくるでしょうから、IT を駆使して仕事を進めていく必要があります。その中で BIM は欠かせないものなので導入する、という判断になりました」。

田澤氏は、「テレワークを企業にコンサルする仕事をする中で、最初にお願いするのは、会社にある仕事道具と仕事仲間をクラウドに上げてください、ということです」と述べる。「それがクラウドにあれば、どこからでも仕事ができる。クラウドは、離れた場所で働くには絶対に必要なものです。BIM を扱うチームの場合、クライアントが BIM 360 Docs を使っているケースも多くなっていますが、クラウドベースのシステムを使うことで、チームでセキュリティを保ちながら取り組むことができます」。
乃村工藝社も BIM 360 Design を利用。クラウド上にある Revit の中央モデルを、社外の人を含めて複数の人が修正・変更してプロジェクトを進めていく。「今後は、例えば時差を利用することで、日本で業務時間中に修正した中央モデルを、その後は時差のある国で修正したりすることで、モデルが24時間進化し続けてスピーディに成果物が出せる、というような設計のやり方にも興味を持っています」。
また、現在注力している人材確保にも BIM が良い影響を与えると考えているという。「在宅勤務の推進も含めて、人材確保がキーワードになっています」と、田辺氏。「例えば BIM を活用していることをインターンシップで学生さんにアピールしたり、テクノロジー好きの人だけを集めてディスカッションを行ったりすることで、乃村工藝社という会社での働き方に魅力を理解してもらう取り組みをしています」。
田澤氏も「働き方改革や人材不足により、いろいろな人を活躍させたい、あるいは社員の環境が変わっても辞めないでほしい、という要望が強くなっています」と強調する。「クラウドなどのツールを活用することで、業務を安全に外に出すことができます。人材確保は大切だし、その人材を大切にするために働き方改革をするのですから、仕事がオーバーフローしないように外に出せるような、そういう仕組みや方針が広がっていけばいいなと思っています」。
本原稿は 2019 年 6 月 25 日に東京ミッドタウン日比谷BASE Qで行われた「建設・建築業向け働き方デザインセミナー」(主催: アドビ システムズ 株式会社) のパネル ディスカッションを再構成したものです。