片田舎の街にも未来の工場が生まれるだろうか?
未来の工場によって、米国中西部の製造業界は復活できるでしょうか? 需要が変われば工場も変わり、それによって恐らくは見捨てられた場所にも新たな業界や仕事がもたらされるでしょう。
1971 年に公開された映画「夢のチョコレート工場」に、工場の経営者であるウィリー・ウォンカが、自身の“革新的で、汚染を生まない奇跡”の動作を自慢げに紹介する場面がある。目を輝かせたウォンカが、ボタンをひとつ押すだけで、その機械は動き出してお菓子の材料を混ぜ合わせたり、加工したり削ったりし始める。そして数秒後、完璧な形の、おいしそうなチューインガムが吐き出される。
製造がこれほど簡単で環境に優しく、自動化されていたら、どんなに良いだろう。新興のテクノロジーにより、従来以上に複雑かつ正確な製造が可能になってきているとはいえ、現在の製造業界の状況は、あの夢の工場にはほど遠い。だが、未来であれば実現可能だ。
この数十年間、米国の製造業の軌跡は、かなり悲惨なものだった。アメリカ合衆国労働省労働統計局によると、この業界で働く米国人の全労働人口に対する割合は、ピーク時の 1953 年の 32.1% に対して、2017 年には 8.5% にまで下落 (英文資料)。また、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの報告書によれば、米国工場の平均的な稼働年数は 25 年、機械の使用年数は平均 9 年に過ぎない。米国の製造業者は投資を先送りしてコスト削減に注力してきた。これは短絡的な思考に侵された方策だ。
時計を 2019 年に進めよう。自動化の発展により、いまや製造業における新たな破壊的変化のストーリーが推し進められている。中西部など、かつての工業地帯では、主要な製造業者が小さな街や都市から離れて久しく、高い専門技能を有する高年齢層の労働人口は見捨てられている。だがラストベルトと呼ばれる、かつて重工業や製造業で栄えたエリアの各都市では、このところの成長を示す数字が、明るい兆しを感じさせている。こうした比較的小さな都市が、最終的には製造業の復活を牽引する可能性があることを示唆しているのだ。
夢のチョコレート工場が強い印象を与えたのは、即座に供給を行うことで果てしないニーズと望みを満たすことができたからだ。中西部における現実の問題は、技能不足と高齢化、資本不足だ。だが、あの空想上の工場が実現するような未来が訪れるとしたら?
起こりうる未来に向かって
製造業界は、過去の再現でなく今後の競争に注力する必要がある。成功のための明らかになりつつある手段は、建設業界など、従来は想像しなかったようなエリアに存在している。未来志向のデザイン ワークフローでは、耐用年数を超えたビルの処理を、建設前に考慮する。環境負荷の低い材料を選択して、その後の解体ではコンポーネントを再利用できるよう計画するのだ。建設と製造のコンバージェンス (収束) が進むことで、こうしたイノベーティブなプロセスが、製造・建設されるものすべてに及ぶようになるだろうか?
Autodesk Research が作成した推論のシナリオは、中西部における製造業の一歩進んだ手法を示すもので、「サービスとしての製造」のコンセプトを活用し、構成を変更可能なマイクロファクトリーのネットワークをモデルとしている。
ここで架空の小さな街を想像してみよう。地元の工場が閉鎖された影響により、働き口も金も無い。荒涼とした目抜き通りが、昔のウェスタン映画のワンシーンを思わせるような町だ。高齢化層の退職は近づくが収入の見通しは暗く、進学や雇用の機会を求めて若年層は町を去った。だが、新たな成長エリアが出現すれば、資産の手頃さや新しいタイプの働き口が若い労働人口を徐々に小さな街へと連れ戻し、地方経済を再び活性化させる可能性がある。
このシナリオは、マイクロファクトリーがアジャイルかつ多様なものとなった未来を考えるものだ。もはや工場は、シングルユースの設備や、高度に専門化され単一の製品や部品しか製造できないソフトウェアで制約されることはない。その代わり、その工場へ新しいツールセットをバーチャルにアップロードし、新たな需要を満たせるようワークフローを再構成できる状況を想像してみよう。
ライドシェアのアプリは移動手段に大きな変革をもたらし、他の業界は製品の所有 (オーナーシップ) から離れて、サービスの「ユーザーシップ」へと変化を続けている。「サービスとしての製造」モデルは、アジャイルな「ラストベルトの製造ネットワーク」のようにも見える。これは大企業がアクセス料を支払うことで契約を結べる、コネクトしたマイクロファクトリーの共同体だ。
また、特定の製品に対する需要が変化するに従って、製造プロセスの特性も変化させることが可能だ。小さな工場のシステム全体の機能を再構成して紐付けすることで、より効率的な最終製品の提供ができる。この架空の工場ネットワークは、実在のイニシアチブを流用したものだ。中国が提唱する「一帯一路」は、シルクロードの復活を呼びかけるもので、地理的境界を越えた、より強いつながりと連携を活用しようという試みだと言える。このプロセスには輸送インフラの向上、コスト削減のための政策改革の着手も含まれ、それが取引と投資の拡大につながる。
新たな世界に対する新ルール
スマート インフラやロボット工学といった新興技術は、既に建設業界で新たな役割を創出している。では小さな街の未来のマイクロファクトリーにより、どういう役割が登場することになるのだろうか?
「協働ロボット サイト マネージャー」は、数十年にわたる作業員管理の経験を活用し、工場内や建築現場でロボットや人間のチームを監督する。また「ノマディック システム アーキテクト」は、複雑な建設や製造のネットワークの仲介役を務め、最適な技術ソリューションとリソースの制約を判断した上で、地域を越えたデザイナーとビルダーの連携を可能にする。
新たな製品や部品がデザインされ、その製造の需要に応える新しい手法が出現すると、「ロボット トレーナー」が導入されるようになるかもしれない。このトレーナーは、シミュレーションを実行し、拡張現実 (AR) や仮想現実 (VR) を使用して作業員から知識を収集し、その洞察を活用して機械学習アルゴリズムへと組み込んで、最終的にロボットが人間と協調し、より良好に働けるよう訓練する。
いまや世界人口の半分以上がミドルクラスだとされており、こうした人口動態の推移で、より多くの住宅や物品、食料、移動手段を求める需要が突き動かされている。増大する需要は、供給の問題に応えることにより、小さな街の経済再生の機会を拡大させる可能性がある。
建築家と施工者は、建設をよりモジュラーかつ反復可能で、効率的なものにするべく、既に製造プロセスの合理化を推進している。また、製造業者は建設現場から見識を収集し、急速に変化するカスタマイズされた需要に素早く適合する、再構築可能なアジャイルなシステムを工場に活用している。
人工知能やジェネレーティブ デザインなど、ツールの技術的な進歩も、デザイナーのより良いソリューションの研究、材料と製造手法の最適化、既存のビルドから得られた洞察を活用して確実に次のビルドをより優れたものにすることに役立っている。元々ゲームや映像向けに開発された VR/AR はデザインのコラボレーションに使われ、チームがより望ましいデータを活用して、リアルタイムで意思決定を行う助けとなっている。
こうした未来像はウィリー・ウォンカの工場ほど奇想天外ではないかもしれないが、結局のところ、必要なのは奇抜さではないのかもしれない。製造のエコシステムがネットワーク化、分散化されるようになれば、地域やローカル組織は、絶えず変化する産業において競争力を保つための十分な装備を持つことができる。今後の 10 年を見据える上で、新旧の企業と大小の都市は、価値を活性化する新たな方法を見出す必要がある。今の段階でインフラを構築すれば、組織と被雇用者の両方を勝ち組にできる可能性がある。