製造業のインダストリー 4.0を促進する 2020 年代の 3 大トレンドとは
製造業のインダストリー 4.0 から自動化とスマートファクトリーからさらなる進化を遂げる中、2020 年代の重要なトレンドはデータとエッジ コンピューティングのつながり、サイバーセキュリティと教育になるでしょう。
デジタル製造への移行は、新たな 10 年へと突入する。このムーブメントの技術面は変わっていないものの、インダストリー 4.0 を取り巻く状況は大きく動いている。
米国製造技術協会 (AMT) の MTConnect 協会 でマネージングディレクターを務めるラッセル・ワデル氏は「テクノロジーにおける 3 大トレンドは、引き続きアディティブ (積層造形) と自動化、スマート ファクトリーです」と述べる。そこに含まれる AI やドローン、AR/VR、IoT は、そのどれもがインダストリー 4.0 を定義する要素だ。
2020 年代の極めて重要なトレンドは、スマート コンポーネントのテクノロジーと関連データのコネクト、そのシステムのセキュリティの確保、そして成熟したインダストリー 4.0 を実現する労働力育成の取り組みが中心になるだろう。[英文資料]
デジタル スレッド:Connected Manufacturing (つながる工場)
アメリカ国立標準技術研究所 (NIST) で製造拡張パートナーシップ (MEP) ディレクターを務めるキャロル・トーマス氏は、製造業者向け先進技術導入支援センターの全米ネットワークを運営している。国勢調査局によると、製造業界の小規模企業においては、その 75% が社員数 20 名未満。現在は社員数 500 名未満の中小企業の多くでも、大企業が長年行ってきたプロセスとサプライ チェーンの自動化が進みつつあると、トーマス氏は述べる。
「協働ロボット (コラボレーション ロボット、コボット) が重要な存在になっています。二次、三次サプライヤーの多くが IoT 接続できるセンサーや AI を使い、より思慮深く戦略的な方法で自動化を進めています」と、トーマス氏。「運営全般のデジタル化が行なわれ、こうした統合が主流となりつつあります」。
NIST Smart Manufacturing Systems Test Bed の機械系エンジニア、共同リーダーであるトーマス・ヘドバーグ氏はインダストリー 4.0 を、解決すべき問題に対する基本合意の段階にまで成長したと考えている。それは全てのデータとシステムをつなぐことで製品のデザインや製造、検品の各段階がスムーズに進められ、互いにフィードバックを提供し合うということだ。
例えば積層造形のメーカーは、レーザーが金属粉末を溶かす際にできる熔融池 (メルト プール) の数百、数千もの写真を撮影できる。「このデータを、マシンのプロセス パラメーターに結びつけようとしています」と、ヘドバーグ氏。

「個々の製造プロセスが開発された時点では、それらをつなぐことは考慮されていませんでしたが、各プロセスの内部では専門的なシステムが開発されてきました」と、ヘドバーグ氏。「そのプロセスを解体するのでなく、プロセス間をつなぐパイプラインを作成すれば良いのではないか。それが“デジタル スレッド”です。課題はシステム工学上の問題で、システム思考により導かれる多分野にわたるチームが必要になります。そこで基準が重要なものとなり、基準の一部は協調し始めています」。
ワデル氏が管理するロイヤリティフリーの工作機械向けの通信プロトコル MTConnect は、あらゆる業種の 400 名以上のシステム インテグレーターやマシン ビルダー、ソフトウェア開発者、エンド ユーザーがもたらす情報やデータを取り込んでいる。ワドル氏はトップダウンの視点から、「つながる工場」の今後の方向性を示すソートリーダーたちが製品ライフサイクルのデザイン、製造、検品の各段階にとらわれず、その分野における製造後のメンテナンスも含めて考えるようになっているとと話す。
例えばアメリカ海軍が Newport News Shipbuilding や General Dynamics Electric Boat など未来志向のサプライヤーに船舶を発注する際には、設計時モデルや製造完了時モデル、資産モデルが必要になるかもしれない。「メンテナンス契約には、製造完了時の状態を確認する船舶の再検査などが含まれる可能性があります」と、ワドル氏。「船舶内部を 3D スキャンすることで、変更を最初のモデルに反映できます」。
エッジ コンピューティングとサイバーセキュリティ
ヘドバーグ氏は、製造業における「データのつながり」の問題を解決するにはエッジ コンピューティングが必要だと話す。これは暗号化や機械学習などのプロセスのための作業の大半 (もしくは全部) がクラウド上でなくデバイス上で行われるという点で、クラウド コンピューティングと異なるものだ。またパーソナル コンピューティングとは違い、ソフトウェアは自動更新され、セキュリティはユーザーでなく中央管理される。

「現行のデバイスにはそこそこのパワーがあるものの、先進的なデータ処理の最適化には十分ではありません」と、ヘドバーグ氏。「ベーシックな処理をエッジで行い、データを素早く移動させて、工場やマシンに答えを返す必要があります」。
エッジ コンピューティングは処理の待機時間を削減し、使用する帯域幅を大幅に抑制できる。またプライベートなデータをクラウドに置かず、ベンダーが更新するセキュリティ機能が優れたものであれば、より優れたサイバーセキュリティを提供できる可能性を秘めている。
つながるスマート ファクトリーにおいて、サイバーセキュリティは既に大きな懸念事項だ。5G コネクティビティの拡大は、その不安をさらに大きくする。5G によってネットワークはほぼハードウェアからソフトウェアへと転換するため、帯域幅拡大などの利点が提供される一方で、サイバー攻撃への脆弱性も高まることになる。
「自動化やセンサーに投資する中小企業へ、サイバーセキュリティも考慮するよう懸命に促しているところです」と、トーマス氏。
雇用と教育
米国内のさまざまなメーカー (特に中小企業) を訪れる中で、トーマス氏は業界全体に影響を及ぼしている慢性的な問題の存在に気付く。それは、どの工場でも求人数を満たすに十分な、スキルを持つ候補者を見つけられていないということだ。

氏が例に挙げたプラスチック成形工場では、条件を満たす Vermont Technical College の卒業生を残らず採用しているが、それでも全求人枠を埋められていない。アラバマ州のあるフィルターメーカーは求人用の掲示板を立てているし、テネシー州の工場は従業員の子息を可能な限り獲得すべく優先採用を行なっている。
相応の能力を有した労働者の不足は、自動化とインダストリー 4.0 技術を活用しようという中規模製造企業の多くに影響を与えている。ただしトーマス氏は、この種の企業は雇用を減らさず技術を取り入れているのだと話す。
「テクノロジーの導入は、社員を解雇するためではありません」と、トーマス氏。「必要な生産能力の拡大を支援するためです」。
協働ロボットと自動化は未だに高価だ。それを中小の製造会社が導入するのは必要に迫られてのことであり、コスト削減手段として雇用を減らすためではない。事実、トーマス氏によると、インダストリー 4.0 の自動化は高収入のメンテナンス技師職を創出している。工場の他の職でも多少は賃金が上昇しているが、労働力不足が示唆するほどの上昇率ではない。
「新しいテクノロジーの活用で労働力を補っていますが、装置を動かし、メンテナンスを行える人材が必要です。そうした技術者こそ、各社が互いに奪い合っている人材なのです」。
製造業の人材不足への対処として、トーマス氏は教育改革と、この分野内で拡大しつつあるダイバーシティとインクルージョンの進展を提言する。「普段なら工場で働くことはないであろう人々に働きかけるのです」と、トーマス氏。「それは定年が近い人々や社会的弱者、大学進学を検討中の若者などです」。
トーマス氏は、ベルギーの OECD Local Development Forum や ManpowerGroup の Web イベント「Women, Let’s Catch the Shift」(いずれも昨年末に開催) などで、労働力を拡大し教育するために、比較的小規模なメーカーと教育機関の間の、より強力なつながりも提唱している。

Lincoln Electric の VR 溶接訓練機 VRTEX 360 などの新たなテクノロジーは、実際に溶接装置を使用する前に作業へ触れる機会を提供することで、特定の産業のニーズに対して学生がより迅速に、低コストで準備を整えるのに役立つ。このシステムはカリフォルニア州トーランスのエル・カミーノ大学が使用しているが、それでも需要に応えられるスピードで卒業生を送り出せてはいない、とトーマス氏。AR 溶接システムの Miller AugmentedArc のような専門の製品や、MeasureKit や SketchAR などの一般向けアプリなど、AR も効果的な製造業教育となる。
「実際のところ、教育全体を見直す必要があると思います」と、トーマス氏。「新たなテクノロジーを理解するために日々知識を取り入れられる、生涯教育を行うべきです。全ての被雇用者に必要な資質は、学びの才能です。素早く適応、習得できる人材が求められているのです」。