WeWork ニック・レイダー氏: サービスとしての空間 (SaaS) ビジネス モデルでオフィス デザインを変革
建築家資格を持つニック・レイダー氏は、スタートアップやフリーランス、スモール ビジネス、大企業に共有ワークプレイスを提供する WeWork で、自身が最もエキサイティングな業務についていると述べる。カスタム デザイン、ポートフォリオ分析、オフィス マネジメント サービスを含むビジネス モデル、Powered by We のデザイン部門を統括するレイダー氏は、その役割を「スタートアップ内に存在するスタートアップの、そのまた内部のスタートアップ」の MC だと説明している。
先日 The We Company へとブランドを変更し、企業価値 470 億ドル (約 5.2 兆円) と報じられている WeWork は、商業不動産市場や他のビジネスへの参入を続けている。年次内部報告書によると、WeWork は現在ロンドン、ワシントン DC、マンハッタンで、民間企業としては最大の空間を占有している。

Sprint や UBS といった企業は、今や WeWork が貸し出す物件内の空間に料金を支払うよりも、Powered by We のサービスを用いて自社物件の再設計や運用を行っている。これは大きな潜在市場を示すものだ。WeWork が抱える 2,000 社ものエンタープライズ規模 (従業員数 1,000 名以上の企業) のクライアントは、フォーチュン 500 企業の 30% に相当する。
レイダー氏の仕事の中心は「サービスとしての空間」を提供する方法を考え出すことだ。彼が率いるチームは、業務慣行データと洞察を用いて効率的かつコミュニティ志向のワークスペースを生み出すエンジニア、建築家、ワークプレイス ストラテジスト、BIM スペシャリスト、グラフィック デザイナーから構成されている。このデータと洞察は、インタビューや調査、WeWork メンバー アプリから収集したものだ。こうした空間は、企業が不動産に関する問題を整理し、その成長を加速させるのに役立つとレイダー氏は話す。
WeWork はオフィス空間の世界における Amazon となるのだろうか? そのレイダー氏に、デザインからスケーラブルでデータ主導のサービスへ建築を変貌させることを目指したプログラムの、クリエイティブな側面に対する考え方を語ってもらった。
建築デザイン事務所のスノヘッタへ建築家、プロジェクト ディレクターとして 10 年間務めた技能と経験を、WeWork での業務ではどう応用されていますか?
スノヘッタでは、ナパバレーを象徴するレストラン The French Laundry のキッチンと中庭の改築、ゴールデンステート・ウォリアーズのホーム アリーナ (サンフランシスコのチェイス・センター) から、ホノルルに計画されたオバマ大統領図書館のマスタープランまで、ありとあらゆるものを手がけました。その経験は、大学で受けた建築のトレーニングである、複雑な問題の解決能力の向上に役立ちました。
問題をさまざまなアングルから検討して、自分の専門外の分野のエキスパートを取り込む必要があります。WeWork ではカスタム ビルドのプロジェクトもありますが、毎回すべてが異なるわけではありません。弊社は拡張、構築可能なプラットフォーム構築に取り組んでいますが、これは非常に難しい問題をもたらします。外部の専門家が必要となり、建築家の問題解決のスキルセットが役立ちます。
Powered by We は「サービスとしてのオフィス空間」と表現されていますが、具体的にはどういうものなのでしょうか?
基本的に、WeWork スペースから得られたワークプレイス体験に関する理解を活用して、それをクライアントの文化やブランド、ワークスタイルに合わせて調整します。単なるデザインビルドではなく、コミュニティ マネジメントやソフトウェア統合、不動産分析など、すべてが含まれます。弊社が実現しているのは、エンタープライズ クライアントの価値命題を明らかにすることです。クライアントは、弊社のサービスが社員の離職率を下げ、人材の採用や効率性、競争力を向上させられることを理解しています。統計結果がそれを証明しているのです。
WeWork が手がけたニュージャージー州リンカーン・ハーバーの UBS オフィスの改装では、その前後でオフィス空間の見た目はどう変わりましたか?
空間の見た目よりも、それが UBS にどう機能していたかが重要です。弊社のデザイナーや建築家、ワークプレイス ストラテジストにとっては、UBS と緊密に連携してニーズを分析し、予算とスケジュールに合わせつつ、USB の目標を後押しするようなデザイン戦略を立てることが重要でした。まず、空間活用の記録を残すことを含めた調査を行いました。つまり実際にその空間内で仕事をし、UBS の従業員と面談をすることで、どこがうまく機能しているのかを理解し、幾つかの主要なニーズを把握したのです。

この準備作業は、デザイン思考にどういった情報を提供しましたか?
調査に基づき、柔軟性とコラボレーションを求める要望に応える戦略を構築しました。それは、1 日を通してフロア全体を活性化させるフレキシブルな設備を持った、多機能な空間を提供する、ということでした。カフェテリア横のラウンジでランチミーティングを開いたり、ホールでレセプションを開催したり、会議室を分割、拡張したりできるようになっています。コーヒーやジュースを提供するバーなどの新たな設備が、空間をインタラクティブなものにします。また、小さく分割されたインフォーマルな空間は、共通空間と一体化して交流をを促します。私たちはこの空間を、1 人用の通話用ブースから 500 名収容可能なホールまで、バラエティ豊かなミーティング エリアを提供するものにしたいと考えました。
H通常、デザイン プロセスはどのようにスタートするのですか?
どの Powered by We クライアントも気づきのプロセスを踏みます。技術面では、すべての空間をレーザースキャンして高解像度の点群データを取得し、そのデータを Autodesk Revit や社内ツールを使用して条件やモデルへ変換します。これは純然たる BIM で、従来の文書化プロセスのプラットフォームだけを新しくしたものではありません。仕様、コスト、ロジスティックス、納期、引き渡し、干渉および検知モデルと、空間とその物理プロダクトに関する埋め込みデータすべてが含まれています。単にシートセットを送り出しているわけではありません。実際のスケジュールとロジスティクスに素早く移行し、完成後の引き渡しを期待以上のものに向上させています。

人間的な面はいかがですか? デザインに対してパーソナライズが加えられる部分は?
空間に人間性をもたらすのは、何よりも人間そのものです。各ロケーションには、すべての使用者を名前で把握するコミュニティ マネージャーを設置できます。コミュニティ マネージャーは使用者の懸念事項や日常生活について尋ね、業務をサポートします。近年、人材獲得における市場競争はますます強まっており、コミュニティ マネージャーの設置は、標準的なファシリティ マネージャーがもたらす以上の利点をもたらします。コミュニティ マネージャーは体験のキュレーションを行います。講演やランチョン (昼食会)、試食会や試飲会を提供し、つながりの構築を支援します。これは、企業の人材獲得競争において重要な利点となります。
WeWork のエンタープライズ デザイン サービスは建築家に不安原因をもたらすのでしょうか?
建築家個人は何の心配もいらないと思います。弊社は連携に関するスキル セットを有し、複雑な問題の解決にエキスパートを参与させる手法を理解しており、成功を収め、実際に業界全体にわたる変革を導く独自の地位にあります。とはいえ、一般的な建築事務所の立場では、とてつもない恐怖を感じることでしょう。変化に抵抗している企業もありますが、結果として、こういった類の企業や機関の価値は大きく低下しているのです。彼らこそ、この変化について心配するべきです。